顔面神経麻痺後に口を動かすと目が閉じるのはなぜ??
病的共同運動の原因と対処法
顔面神経麻痺のあと、顔が少しずつ動くようになり、安心した頃に、
「笑うと目が細くなる」
「食事をすると、まぶたが閉じてしまう」
「目を強く閉じると、口元まで動く」
といった症状が現れることがあります。
これは、顔面神経麻痺後の「病的共同運動」と呼ばれる後遺症の一つです。
顔面神経が回復しているのに、なぜ動かそうとしていない部分まで一緒に動いてしまうのでしょうか。
この記事では、顔面神経麻痺後に共同運動が起こる仕組みと、リハビリや鍼灸で大切にしたい考え方を分かりやすく解説します。
顔面神経麻痺後の共同運動とは
共同運動とは、顔の一部分を動かそうとしたときに、意図していない別の筋肉まで一緒に動いてしまう状態です。
特に多いのが、目と口の間で起こる共同運動です。
笑うと目が閉じる
口をすぼめると目が細くなる
食事中にまぶたが動く
目を閉じると口角や顎が動く
口を動かすと顎や首に力が入る
共同運動は、顔面神経麻痺の発症直後から現れる症状ではありません。
麻痺した神経が再生し、顔の動きが戻り始める過程で目立つようになります。
共同運動の始まりは顔面神経の軸索損傷
顔面神経の障害が比較的軽く、一時的に神経の信号が通りにくくなっただけの場合、神経の線維そのものは保たれています。
一方、麻痺が強く、神経の中を走る「軸索」という線維まで傷ついた場合は、回復するために軸索を伸ばし直す必要があります。
共同運動が生じる前提となるのが、この軸索の損傷と再生です。
すべての顔面神経麻痺で共同運動が起こるわけではありません。
一時的な伝導障害だけで軸索が保たれている場合、原則として共同運動は起こりません。軸索の損傷が強かった場合ほど、回復過程で共同運動が生じる可能性が高くなります。
神経が再生するときに行き先がずれる
顔面神経は、脳から耳の奥を通って顔に出たあと、複数の枝に分かれます。
それぞれの枝は、
まぶたを閉じる筋肉
口角を動かす筋肉
頬を動かす筋肉
下唇や顎を動かす筋肉
首の表面にある筋肉
など、異なる場所へ運動の指令を届けています。
軸索が傷つくと、神経は再び筋肉へ到達しようとして、細い枝を伸ばします。
しかし、その再生経路が元と完全に同じになるとは限りません。
本来は口元へ向かっていた神経の一部が、まぶたを閉じる筋肉へ伸びたり、一つの神経線維から複数の筋肉へ枝分かれしたりすることがあります。
すると、脳が「口を動かそう」と指令を出したとき、その信号が口元だけでなく、目の周囲にも届きます。
その結果、笑ったときや食事をしたときに、本人の意思とは関係なく目が細くなったり、まぶたが閉じたりするのです。
この現象は「迷入再生」や「異常再支配」と呼ばれ、共同運動が起こる中心的な仕組みと考えられています。
神経の誤配線だけでは説明できない
共同運動は、神経の「誤配線」に例えられることがあります。
患者さんにも理解しやすい説明ですが、現在では、末梢神経の行き先がずれるだけでなく、神経を動かす脳幹や大脳の働きも関係すると考えられています。
顔面神経が傷ついたあとには、
顔面神経核の興奮性が変化する
興奮と抑制のバランスが変化する
隣り合う神経線維へ信号が伝わる可能性がある
大脳における顔の運動制御が再編成される
必要な筋肉だけを選んで動かすことが難しくなる
などの変化が重なる可能性があります。
そのため、共同運動は単なる神経の誤配線ではなく、末梢神経から脳までを含む「顔の運動調整の問題」として捉える必要があります。
共同運動によって顔のこわばりや左右差が強くなる理由
共同運動が続くと、本来は休んでよい筋肉まで繰り返し収縮します。
例えば、話す、食べる、笑うたびに目の周囲の筋肉が一緒に働くと、
目が細く見える
目の周囲が重く感じる
まぶたを開けにくい
顔が疲れやすい
といった症状につながります。
口元や頬、顎、首の筋肉でも同じようなことが起こります。
顔が引きつる
頬や口元が硬い
麻痺側のほうれい線が深く見える
顎や首が疲れる
表情をつくりにくい
人前で笑いにくい
共同運動は、単に「余計な動きが出る」だけではありません。
安静時のこわばりや顔の左右差、目の開けにくさ、表情のつくりにくさにも関係します。
顔を強く動かしたことだけが原因ではない
共同運動の主な背景は、顔面神経の軸索損傷と、その後に起こる複雑な神経再生です。
「自分が顔を動かしすぎたから共同運動が起きた」と、患者さん自身が責任を感じる必要はありません。
ただし、共同運動が現れ始めた時期に、目と口を一緒に強く動かす練習を繰り返すと、意図していない筋肉の収縮まで強く出ることがあります。
顔面神経麻痺後のリハビリでは、筋力をつけることよりも、
余計な筋肉の力を抜く
必要な筋肉だけを選んで動かす
小さく、ゆっくり動かす
目と口の動きを分ける
ことが大切です。
「もっと強く動かさなければ」と焦って、自己流で大きな表情運動を繰り返すことは避けましょう。
顔面神経麻痺後の共同運動への対応
国際的なシステマティックレビューでは、共同運動に対する第一選択として、顔面のバイオフィードバックを取り入れたトレーニングが推奨されています。
鏡や表面筋電図などを利用し、自分では気づきにくい筋肉の動きを確認しながら、共同運動が目立たない範囲で顔の動きを分けていきます。
目的は、顔を大きく強く動かすことではありません。
意図しない筋肉の収縮を抑えながら、必要な動きを少しずつ取り戻すことです。
症状によっては、医療機関でボツリヌス毒素治療が検討されることもあります。
国際レビューでは、顔面トレーニングに続く治療としてボツリヌス毒素治療が位置づけられています。
共同運動の場所や程度は一人ひとり異なるため、自己流で動かし続けるのではなく、顔面神経麻痺のリハビリに詳しい医療従事者による評価を受けることが大切です。
共同運動に対する鍼灸の考え方
共同運動に対する鍼灸では、意図せず動いてしまう筋肉だけを見るのではありません。
安静時の顔の緊張
目と口が連動する動き
頬や口元のこわばり
顎や首の緊張
目の開けにくさ
顔全体の力み
などを確認します。
施術では、過剰に緊張している部分のこわばりやつっぱり感を和らげ、顔を小さく動かしやすい状態をつくることを目指します。
また、鏡を利用したリハビリなどと組み合わせ、目と口を別々に動かす練習を行いやすい状態へ整えていきます。
鍼灸だけで神経の再生経路を元に戻すという考え方ではなく、顔の過緊張やこわばりを確認しながら、適切なリハビリを続けやすくすることが目的です。
『顔面神経麻痺診療ガイドライン2023年版』では、慢性期にみられる拘縮やこわばりなどの後遺症を軽減する目的で、鍼治療を行うことが「弱く推奨する」とされています。
「弱く推奨する」とは、すべての方に一律に行うという意味ではありません。
共同運動の程度、発症からの期間、医療機関での治療内容などを確認したうえで、選択肢の一つとして検討するという位置づけです。
【関連記事】
顔面神経麻痺診療ガイドライン2023年版における鍼灸の役割と可能性
亮鍼灸院で確認していること
札幌の亮鍼灸院では、単に顔が動くかどうかだけでなく、次の内容を確認します。
どの動作で共同運動が起こるか
口を動かしたときに目がどの程度閉じるか
目を閉じたときに口元や顎が動くか
目と口のどちらから余計な動きが始まるか
安静時にも顔のこわばりがあるか
頬、顎、首に過剰な緊張がないか
発症からの期間と回復経過
柳原法やENoGなどの検査結果
日常生活で困っている動作
そのうえで、共同運動のパターンと現在の回復段階に合わせ、鍼灸とセルフケアの内容を組み立てます。
病院で柳原法やENoGの結果を受け取っている場合は、初回来院時にお持ちください。
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顔面神経麻痺の柳原法とは?40点満点の評価項目と点数の見方
共同運動では余計な力を減らすことが大切
共同運動は、顔面神経が回復しようとした過程で起こる、複雑な運動調整の変化です。
顔が動くようになったあとに目や口が一緒に動き始めても、「回復がすべて無駄になった」という意味ではありません。
大切なのは、「もっと強く動かさなければ」と焦ることではなく、現在の動き方を丁寧に確認することです。
余計な力を減らしながら、必要な筋肉を小さく、ゆっくり動かすことから始めましょう。
亮鍼灸院では、札幌市東区の栄町院と札幌市中央区の大通院で、顔面神経麻痺後の共同運動やこわばりに対する鍼灸施術を行っています。
参考資料
『顔面神経麻痺診療ガイドライン2023年版』日本顔面神経学会編
※本記事は、顔面神経麻痺後の共同運動に関する一般的な情報提供を目的としています。共同運動の症状や適切なリハビリ方法には個人差があります。主治医や顔面神経麻痺のリハビリに詳しい医療従事者へご相談ください。
亮鍼灸院
院長 永田亮太(ながたりょうた)
はり師・きゅう師、柔道整復師の国家資格を持っています。
・北斗病院鍼センター非常勤鍼灸師
・十勝リハビリセンター非常勤鍼灸師
心電図にて自律神経測定を行い、鍼灸における自律神経の影響を研究しています。








