ベル麻痺と診断されたら…発症直後の治療・目の保護・回復期の注意点
ベル麻痺と診断されたら|発症直後の治療・目の保護・回復期の注意点
朝、鏡を見ると片側の顔が下がっている。
口に含んだ水がこぼれる。
目を閉じようとしても、片方だけ閉じきらない。
突然このような症状が現れると、「このまま顔が戻らなかったらどうしよう」と不安になる方も多いと思います。
ベル麻痺は、片側の顔を動かす顔面神経に急な麻痺が起こる病気です。治療では発症直後の対応が重要ですが、その後も目の保護、麻痺の評価、回復段階に合わせた表情運動などが必要になります。
今回は、ベル麻痺と診断された方が、発症直後から回復期までに知っておきたいことを順番に解説します。
ベル麻痺とは
顔面神経は、顔の筋肉を動かす神経です。
主に次のような動作に関係しています。
眉を上げる
額にしわを寄せる
目を閉じる
頬を動かす
口角を上げる
唇を閉じる
口をすぼめる
ベル麻痺では、この顔面神経に炎症やむくみが起こり、耳の奥にある狭い骨の通り道の中で神経が圧迫されることが、麻痺につながると考えられています。
原因を一つに決めることはできませんが、単純ヘルペスウイルスの再活性化が関係しているという説が有力です。
「疲れたから発症した」「免疫力が低いから発症した」と単純に説明できる病気ではありません。ご本人の生活の仕方や気持ちの弱さが原因でもありません。
ベル麻痺で現れやすい症状
ベル麻痺では、多くの場合、顔の片側に次のような症状が現れます。
額にしわを寄せにくい
眉が上がらない
目を完全に閉じられない
口角が下がる
飲み物が口からこぼれる
食べ物が頬と歯ぐきの間に残る
発音しにくい
味を感じにくい
普段の音が大きく響く
耳の周囲に違和感や痛みがある
顔面神経は、顔の筋肉を動かすだけでなく、涙や唾液の分泌、舌の前方の味覚、耳の中にある筋肉にも関係しています。
そのため、顔の動かしにくさ以外の症状が現れることもあります。
麻痺の程度は一人ひとり異なります。見た目の左右差が比較的小さくても、食事や会話、仕事、人前で笑うことに大きな負担を感じる方もいます。
【関連記事】顔面神経は「顔を動かすだけ」ではない|涙・味覚・音の響きとの関係と鍼灸
まず大切なのは顔面麻痺の原因を確認すること
突然、顔の片側が動かなくなったからといって、すべてがベル麻痺とは限りません。
耳の強い痛みや水疱、難聴、めまいなどを伴う場合は、帯状疱疹ウイルスが関係するラムゼイ・ハント症候群の可能性があります。
また、顔の麻痺に加えて、
手足に力が入りにくい
手足がしびれる
ろれつが回らない
言葉が出にくい
強い頭痛がある
物が二重に見える
意識がいつもと違う
まっすぐ歩けない
といった症状がある場合は、脳卒中なども考える必要があります。
このような症状がみられる場合は、救急要請を含め、すぐに医療機関を受診してください。
ベル麻痺は、ほかの病気による顔面麻痺の可能性を確認したうえで診断されます。手足の症状がなくても、突然顔が動かなくなった場合は、まず耳鼻咽喉科などの医療機関を受診することが大切です。
発症後72時間以内の治療が重要
ベル麻痺の急性期には、顔面神経の炎症やむくみを抑えるためにステロイド治療が行われます。症状や重症度に応じて、抗ウイルス薬が併用される場合もあります。
米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会の診療ガイドラインでは、16歳以上のベル麻痺に対し、発症後72時間以内にステロイド治療を開始することが推奨されています。
顔の麻痺に気づいたら、様子を見続けず、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。
ただし、発症から72時間を過ぎていたとしても、「もう何もできない」という意味ではありません。
現在の麻痺の程度を評価し、目の保護や必要な検査、その後の対応を確認する必要があります。自己判断で諦めず、医療機関へ相談してください。
目を閉じにくいときは眼の保護が必要
まぶたが完全に閉じられないと、まばたきによって涙を目の表面へ広げることができず、角膜が乾燥しやすくなります。
そのままにすると、次のような症状が現れることがあります。
目がゴロゴロする
目が乾燥する
充血する
涙が多く流れる
光をまぶしく感じる
目に痛みが出る
角膜が傷つく
目が閉じにくい場合は、処方された点眼薬や眼軟膏を使用し、医師や眼科スタッフから指導された方法で目を保護してください。
就寝時にまぶたをテープで固定する方法もありますが、誤った貼り方は目を傷つける可能性があります。正しい方法を教わってから行うことが大切です。
強い痛みや赤み、急な見えにくさがある場合は、早めに眼科へ相談しましょう。
顔面神経の回復は一直線ではありません
顔面神経の回復には時間がかかります。
昨日より動かしやすい日もあれば、疲労や睡眠不足によって顔が重く、動かしにくいと感じる日もあります。
一日ごとの変化だけで「良くなった」「悪化した」と判断せず、数週間単位で経過を確認することが大切です。
医療機関では、顔の動きを点数化する柳原法や、必要に応じてENoGなどの神経検査が行われます。
柳原法
柳原法は、額・目・頬・口元など10項目の動きを40点満点で評価する方法です。
現在の麻痺の程度や、顔のどの部分から動きが戻ってきているかを確認するために使われます。
【関連記事】顔面神経麻痺の「柳原法」とは?40点満点で何を評価するのか
ENoG検査
ENoGは、顔面神経へ電気刺激を加え、麻痺している側の筋肉にどの程度反応が残っているかを、麻痺していない側と比較する検査です。
顔が何%回復したかを直接示す検査ではありませんが、神経障害の程度や回復の見通し、後遺症の可能性を考える材料になります。
【関連記事】顔面神経麻痺のENoG検査とは?「10%・40%」の意味を分かりやすく解説
診察時には、次のような内容を確認しておくと、その後の治療やケアを考えやすくなります。
現在の麻痺の重症度
柳原法の点数
ENoG検査が必要か
目の保護方法
表情運動を始める時期と方法
次回の診察時期
顔は力いっぱい動かさない
顔が動きにくいと、早く元に戻したいという思いから、大きな表情を繰り返したり、力いっぱい顔を動かしたりしたくなるかもしれません。
しかし、顔面神経麻痺の回復期には、筋力をつけることよりも、余計な力を入れずに必要な筋肉を動かすことが大切です。
強い力で目や口を繰り返し動かすと、
口を動かしたときに目が閉じる
目を閉じたときに口元まで動く
頬や口元がこわばる
顎や首に力が入る
といった病的共同運動や、顔の過緊張につながる可能性があります。
表情運動を行う場合は、医師や顔面神経麻痺に詳しい医療従事者に開始時期と方法を確認したうえで、次の点を意識します。
鏡を見ながら行う
小さく動かす
ゆっくり動かす
顎や首に力を入れない
目と口を必要以上に一緒に動かさない
疲れるほど繰り返さない
「イー」「ウー」「プ」の口をつくる場合も、大きく頑張るのではなく、左右の動きを鏡で確認しながら丁寧に行います。
合言葉は「鏡・小さく・ゆっくり・力まず」です。
【関連記事】口を動かすと目が閉じるのはなぜ?顔面神経麻痺後の共同運動が起こる仕組み
ベル麻痺に対する鍼灸
『顔面神経麻痺診療ガイドライン2023年版』では、顔面神経麻痺に対する鍼治療について推奨が示されています。
対象となるのは、主に次の2つです。
急性期における麻痺の早期回復
慢性期における拘縮やこわばりなどの後遺症の軽減
鍼灸を行う際は、顔の動きだけを見るのではなく、次のような点を確認します。
発症からの期間
医療機関での診断と治療内容
使用している薬
目や口の動き
顔のこわばりや引きつり
目と口が一緒に動いていないか
顎・首・肩の緊張
食事・会話・仕事で困っていること
柳原法やENoGなどの検査結果
顔面神経麻痺は、発症直後の急性期、顔の動きが戻り始める回復期、共同運動や拘縮などがみられる慢性期で、施術の目的が異なります。
顔へ強い刺激を加えれば、その分だけ早く回復するわけではありません。
顔面神経と筋肉の状態を確認しながら、回復段階に合わせて顔・顎・首肩・手足のツボを選び、刺激量を調整します。
医療機関での診断や薬物治療、必要なリハビリを大切にしながら、回復段階に応じて鍼灸を組み合わせます。
【関連記事】顔面神経麻痺診療ガイドライン2023年版における鍼灸の役割と可能性
亮鍼灸院で確認していること
亮鍼灸院では、顔が動くかどうかだけでなく、「日常生活のどのような場面で困っているのか」を詳しく確認します。
例えば、
目が乾いて仕事に集中できない
飲み物が口からこぼれる
食べ物を噛みにくい
電話で話しにくい
人前で笑うことが怖い
顔の左右差が気になる
回復してきたが、顔の引きつりやこわばりが気になる
など、同じベル麻痺でも悩みは一人ひとり異なります。
初回は、発症日、診断名、服薬内容、柳原法の点数、ENoGなどの検査結果、目や耳、味覚の症状も確認します。
病院から検査結果を受け取っている場合は、初回来院時にお持ちください。検査結果の意味が分からない場合も、発症からの経過と照らし合わせながら一緒に整理します。
検査結果と日常生活での困りごとの両方を確認し、現在の回復段階に合わせて鍼灸と表情運動を組み立てていきます。
ベル麻痺と診断された方へ
ベル麻痺で大切なのは、発症直後の治療だけではありません。
早期に診断と治療を受ける
閉じにくい目を保護する
柳原法やENoGで回復経過を確認する
顔を力いっぱい動かさない
共同運動やこわばりに注意する
回復段階に合ったケアを行う
このような対応を、その時期に合わせて行うことが大切です。
顔の動きを一日ごとに比べると、小さな変化が気になり、不安が大きくなることがあります。短期間の変化だけで判断せず、適切な評価を受けながら数週間単位で経過を確認していきましょう。
亮鍼灸院では、医療機関での治療を大切にしながら、顔面神経麻痺の程度と回復段階に合わせた鍼灸施術を行っています。
札幌の大通院・栄町院で施術を行っています。ベル麻痺や顔面神経麻痺の鍼灸についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
https://www.ryou-shinkyuin.com/
参考資料
米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会「Clinical Practice Guideline: Bell’s Palsy」
『顔面神経麻痺診療ガイドライン2023年版』
「顔面神経麻痺診療ガイドライン2023年版における鍼灸の役割と可能性」全日本鍼灸学会雑誌
亮鍼灸院
院長 永田亮太(ながたりょうた)
はり師・きゅう師、柔道整復師の国家資格を持っています。
・北斗病院鍼センター非常勤鍼灸師
・十勝リハビリセンター非常勤鍼灸師
心電図にて自律神経測定を行い、鍼灸における自律神経の影響を研究しています。








